新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、米国の多くの州では自宅待機命令が発せられております。弊所のあるカリフォルニア州サンタクララ郡においても、5月3日(暫定)までのShelter-in-place(屋内退避)命令が出ており、全所員が自宅からのリモート勤務をしております。日本においても、行政から外出自粛の要請が出ており、多くのクライアント様が在宅勤務に移行されております。
USPTOに提出する書類には、出願人・発明者の署名が必要なものがあります。インクを使った手書きの署名(自署)をされることが一般的ですが、在宅勤務のため、書類への自署が困難な場合も生じているようです。弊所への署名済処理の書類の送付にも遅れが目立ち始めました。
USPTOでは、自署以外にも、S-signatureと呼ばれる代替的な署名の使用が認められており、紙面に印刷することなく電子的に署名ができますので、かかる状況下におかれましては、S-signatureの使用もご検討下さい。
S-signatureとは、パソコン等のキーボードから、自分の氏名の前後をフォワードスラッシュ(/)で囲んで入力した一種の電子署名のことです。例えば、/John Smith/のようになります。S-signatureは、特許法施行規則(37 C.F.R)の1.4(d)(2)に規定されており、USPTOに電子的に提出する書類のほとんどへの使用が認められております。
S-signatureが認めれる条件は、
1)標準文字(アルファベット、数字、空白(スペース)、記号(コンマ、ピリオド、ハイフン、アポストロフィ等)、漢字等)のみを使い、前後をフォワードスラッシュ(/)で囲むこと。例えば、/John Smith/のようになります。イニシャル(/J. Smith/)、称号(/Dr. John Smith/)等も使用可能ですが、USPTOは通常の氏名を使うことを推奨しております。また、全ての書類で一貫して同じS-signatureを使うことを要求しております。したがいまして、日本のクライアント様におかれましては、パスポートで使用しているローマ字の氏名のご使用をお勧め致します。
2)署名者本人がS-signatureを記入すること。自署の代わりとなりますので、必ずご本人がキーボードでタイプして下さい。他人による代理入力は違法です。
3)署名者の氏名がS-signatureの横又は下に明記されていること。USPTOの標準フォームでは既にこのようになっておりますので問題ありませんが、ご自分で提出書類を作成される場合には、
/John Smith/ John Smith
のようにS-signatureと氏名を横に並べるか
/John Smith/
John Smith
のように上下に並べる必要があります。
4)証拠書類を保存すること。通常の署名以上に、本人による署名であることを証明することが難しくなります。実務上は起き得ないと思われますが、USPTOが本人によるS-signatureであることの証拠開示を求める場合があります。これに備えて証拠を保存しておいて下さい。例えば、署名者への依頼メール(ブランクのフォーム添付)と、それに対しての署名完了メール(署名済みフォーム添付)が典型例ですが、それ以外でも構いません。複数の署名者がいる場合、各人からの回答をもらうようにして下さい。複数の署名者が同一部署にいるからといって、代表者にのみメールを送り、1台のPCで順番にS-signatureを入力し、代表者がまとめて回答メールを送ったのでは、各人が署名したという証拠にはなりませんので、ご注意下さい。
S-signatureが使える書類は、USPTOに電子的に提出できる書類のほとんどです。クライアント様に関係するものとしては、例えば、出願時の発明者宣誓書(Inventor’s Oath/Declaration)、委任状(Power of Attorney)、オフィスアクションへの応答書に添付する陳述書(1.132 Declaration)、商標の使用陳述書(Statement of Use)等となります。
譲渡証につきましては、USPTOでは提出された書類の登記・公示のみを行っており、譲渡の有効性については、行為地の法律が適用されることになっております。したがいまして、譲渡証へのS-signatureの使用の可否につきましては、クライアント様の法務部又は日本国弁護士にお尋ね下さい。譲渡証は必ずしも出願と同時に提出する必要はなく、また、出願後に提出する場合でもオフィシャルフィーはかかりませんので、弊所としては、無用の紛争を避ける観点から、従来通りの手書き署名を推奨いたしております。
USPTOでのS-signatureの使用につきましては、長期間の実績(2004年から導入)があり、弊所において作成・提出する書類についても、アトーニー・エージェントはS-signatureを使っております。したがいまして、上記の注意事項に従ってご記入頂ければ、問題なく受領されます。