先日、USPTO主催のDesign Dayというイベントがありました。このイベントは、毎年4月頃に開催され、USPTOの審査官やインハウス、ローファームのアトーニーをスピーカーとして、近時のDesign Patentで関心の高いトピックスや今後の制度改正の見通しなどについてのプレゼンテーションがされます。2018年からは、これに合わせてAIPLAがDesign Rights Bootcampを開催しておりました(COVID-19のため一時休止、今年は別日程で開催)。Design Patentに関するセミナーやUSPTOのイベントは非常に少ないので、貴重な情報収集の機会です。

なお、弊所では、年間300件強のPatent Applicationの出願をしておりますが、その内に占めるDesign Patent Applicationの割合が10%強(30~40件)なので、比較的多くDesign Patentの出願をしている事務所と思います。

さて、そのDesign Dayの中で、図面の実線を破線に変更する、又は、破線を実線に変更する補正は認められるか、ということが話題に上がっておりました。米国のDesign Patentの実務家からすると、このような補正は日常的に行っており、全く問題はありません。セミナーの中では、このような補正が認められることを判示したPTABの審決としてEx parte Giza(Appeal No. 2019-001900)が紹介されておりました。

上掲のように、出願時には全て実線で描かれていたデザインの中の文字を審査中に破線にする補正を行っております。これによりデザインの要部から文字が除外される結果、いかなる文字が枠内に書かれていても権利範囲に含まれるようになります。このような補正はデザインが限定的に解釈されるのを防止するために一般的に行われており、本件においてもこの段階の補正については特段の拒絶は出されておりません。審査がさらに進んだ段階で、出願人は上掲の図の最上部のV字部分を破線にする(クレームの範囲から除外する)補正を行ったところ、審査官がこれを新規事項の追加として112条違反で拒絶しました。出願人はこの認定を争ってAppealを請求し、PTABが出願人の主張を認めた(新規事項の追加には当たらないとした)事件です。

日本の実務からすると、かかる補正は要旨変更に当たるから、新規事項の追加として認められない、となると思います。このため、実線・破線を相互に変更する補正を提案すると、日本のクライアントに驚かれることが度々あります。実線を破線にする補正は、不要な限定解釈を避けて広い権利範囲を得るだけでなく、拒絶の解消にも有効です。

例えば、図面の不備や図面間相互の不一致により明確性要件違反で拒絶された場合であって、指摘された部分の修正が困難な場合に、当該部分を破線に変更すれば、クレームの範囲から外れる=審査の対象ではなくなる結果、拒絶が解消する場合があります。また、Prior Artの形状と類似しているとして103条違反で拒絶された場合に、類似しているとされた部分を破線に補正することで、類似部分が要部から外れる結果、拒絶が解消する場合があります(弊所の実例)。

これらの補正が使えるのは、破線にする部分がデザイン上重要ではない(要部ではない)場合に限られますが、極めて有効な拒絶解消の手段です。