USPTOは、2025年1月の料金改正に向けて、2024年4月3日に「Setting and Adjusting Patent Fees During Fiscal Year 2025」を公表しました。その中で、IDSに関する料金改正案についても言及されています。
このIDSに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。IDSとは、Information Disclosure Statement(情報開示陳述書)の略で、アメリカでは、特許出願に関わる者に対し、特許性に関する重要な情報(information material to patentability)を提出しなければならないという特有の義務(情報開示義務)が課されています(MPEP 2001、37 CFR 1.56)。
しかしながら困ったことに、IDSにおける情報開示義務の対象は「特許性に関する重要な情報」とされているものの、具体的にどのような情報が「重要」なのかという明確な判断基準は開示されていません。一方で、特許権付与前において情報開示義務に違反したと認められた場合には、権利化後であっても、不衡平行為があったとして、その特許全体が権利行使不能とされてしまいます。
そのため、不利な状況に陥る可能性を確実に排除する観点からは、関連する全ての情報を提出したほうがよいとも言えますが、その一方で、全ての情報を提出するとなると過度な手間やコスト(翻訳費用を含む)が発生し、出願人にとって大きな負担にもなります。
このIDSに頭を悩ませているのはUSPTOも一緒のようで、出願の約77%においてはIDSにて提出された情報が25件未満であるものの、出願の約13%では50件を超えており、一部では数千、数万件にも及ぶ情報が提出される出願もあるようです。USPTOは、現行の制度下では、IDSは特許審査を促進するというよりもむしろ審査を妨げる場合があることを問題視し、IDSで提出される情報の数を減らし、かつ、質の高い情報が提出されるような案をこれまでにも提案していますが、その多くは実現には至っていませんでした。そこで、今般の料金改定案において、IDSで提出された情報の累計件数に応じて増加するIDSサイズフィー(IDS size fee)の導入を検討することで、コスト面から大量の情報提供による審査官の審査負担増加という問題を解決しようとしているようです。
そのため、この料金改正に伴い、IDSの運用も見直しを図る必要が出てくるかもしれません。料金改正についての最終決定は、今秋に発表の予定です。
なお、日本の特許事務所やクライアントのお話しを伺うと、IDSでは、(1)出願明細書に記載された先行技術文献、(2)日本やその他の他国における対応ファミリー出願で発行されたOA(指令通知)や国際調査報告(ISR)、(3)上記(2)で引用された文献を提出するという運用が一般的に採用されているようです。
ただし、IDSにて提出する情報の選定基準や翻訳範囲が案件によって異なっていたことで、意図的に情報を隠匿したとして特許が権利行使不能とされた判例もあります( Semiconductor Energy Lab. v. Samsung Elec, 204 F.3d 1368 (Fed. Cir. 2000)、Deep Fix, LLC v. Marine Well Containment Co., CIVIL ACTION NO. H-18-0948 (S.D. Tex. Feb. 18, 2020) )。したがって、料金改正の有無によらず、IDSは、提出する情報の選定基準や翻訳範囲を特許出願ごとに変えるのではなく、一貫した基準のもと対応していくことが引き続き重要になってくると考えます。